幸彩の言の葉部屋

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思ったことを気の向くまま指先が趣くままに綴った駄文集

幸彩の言の葉部屋

クリスマス・エレジー

月日が経つのは早いもので、今年も残すところあと僅か。もうクリスマスも終わり‥‥

というわけで、今回はX年前のクリスマス頃の話。


当時の私は、両親や親戚から再婚を急かされ、CMで有名な大手の結婚相談所に入会していた。

思うところがあり、プロフィールは【離婚歴有り・長女・両親と同居・長女】条件は【婿養子かマスオさん希望】という、超高いハードルにしておいた。

――こんな条件でマッチングする人なんて、いるわけがないよね‥‥

そう思っていたが、月に2〜3人の割合で紹介の通知が届いた。
(世の中には物好きな男性がいるもんだね)

自分で連絡を取るのが億劫で、相手側が電話を掛けてきたら会うというスタイルを通していた。
(何分、超面倒臭がりなので‥‥)

会ってみた男性達は、覇気がなく頼りなかったり、或いは、話が噛み合わない等、進展を望みたいと思うタイプとはかけ離れていた。

――結婚相談所での出会いって、こんなもんかしらねぇ‥‥


退会を考え始めていた12月の半ば頃、相談所からクリスマスお見合いパーティの案内状が届いた。

女性の会費が無料だということもあったが、出される料理に惹かれ参加することにした。
(色気より食い気)

男性参加者へのクリスマスプレゼントとしてマフラーを購入し、バスと電車を乗り継いでパーティ会場へ向かった。

パーティは、何が行われていたのか、どんな男性がいたのか全く覚えていないくらい、退屈でつまらないものだった。
(料理は美味かった)

パーティが終わると、2次会に流れていく人やカップリングが成立した人、相手に恵まれず真っ直ぐ帰る人に別れた。

肝心の異性との出会いが目的ではなかった私は、男性参加者達が用意したプレゼントの中から適当な大きさの物を選び、さっさと会場を後にした。
(持ち帰ったプレゼントの中味は帽子と手袋)


パーティの数日後、事務仕事を終え帰宅しようとしていいる時に、顔見知りになった出入り業者の男性から声を掛けられた。

「神谷さん、23日の午後って空いてる?」

――よく私の名前を知ってるなぁ‥‥
しかもタメ口かい‥‥
じゃあ、こっちもタメ口で‥‥

「23日って天皇誕生日でしょ?祝日だから事務所は1日休みだけど」

「あ‥‥いや‥‥此処の話じゃなくて‥‥」

返した言葉が想定外だったのか、男性はしどろもどろになり目を泳がせた。心なしか男性の頬が上気したように赤らんで見えた。

――ん?
此処じゃなければ工場の話?

聞かれたことの意味が分からず、首を傾げて男性を見ていると、職場の人達が興味津々の目を向けながら二人の側を通り過ぎていき、自然と目が後を追った。

――また、やっちゃった‥‥
自分のほうから「終わりにしよう」って言ったのに、気がつけば、あの人の姿を探してる‥‥


込み上げる寂寥感を振り払うように、目を閉じて首をぶんぶんと横に振った。

「やっぱり、ダメだよね‥‥」

落胆したような声に目を開けると、男性はガックリと項垂れていた。

――あ、そうだ‥‥
23日に空いてるか聞かれてたんだ‥‥

「工場のほうだったら、鍵が空いてると思うけど?」

「え‥‥?」

男性は顔を上げたかと思うと、目をまるくして、あんぐりと口を開けて私を見つめた。

「え?私、何か変なこと言った?」

「あ‥‥いや‥‥。ちゃんと言わなかった僕のほうが悪かった。神谷さんに、23日の午後は何か用事があるのかな?って聞いたつもり」

――空いてるかって、そういう意味‥‥

「特に用事はないけど。それが何か?」

「見たい恋愛映画があるんだけど、1人で行くのはちょっとアレかなって思って‥‥」

「恥ずかしいから私についてきてほしいってこと?」

「うん、まあ‥‥」

「恋愛物は苦手なんだけど、嫌いなホラーじゃないから別に良いよ。で?何処の映画館?」

「○沢」

――県内じゃないんかい‥‥

「あ~、私、○沢までの道、知らないわ」

「だろうと思ってた。神谷さんが究極の方向音痴だってこと有名だから」

――出入り業者の人にまで知られてるんか‥‥
(情報の拡散力がSNS並みの地元である)

結局、会社の駐車場を待ち合わせ場所にして、そこから男性の車で行くことになった。


23日の午後2時過ぎ、○○園駐車場に車を停めて目的の映画館まで歩いていった。映画館に近付いた時、ちらちらと雪が降り始め駆け足で館内に入った。

期間限定なのか【君は僕をスキになる】のリバイバル上映をしていた。異性と恋愛映画を観るのは居心地が悪いだろうと思っていたが、わりとコミカルな内容で抵抗なく観ることが出来た。


映画を観終わって外に出ると雪は降り止んでいた。暖かい館内にいた身体には、外の空気が非常に寒く感じられた。

――う~、寒っ‥‥
あ‥‥そうだ。あの時の帽子と手袋を持って来てたんだった‥‥

バッグから帽子と手袋を取り出しながら男性に声を掛けた。

「映画、面白かったよ。誘ってくれてありがとう」

「良かったぁ。苦手だって言ってたから気分悪くしてるんじゃないかって気になってた。あ、その帽子と手袋‥‥」

男性は私の手元を見て目を見開いた。

「この帽子と手袋がどうかしたの?」

「もしかして、神谷さん、○○の結婚相談所に入会してたりする?」

「あ、うん」

「じゃあ、この前のお見合いパーティに行ってた?」

「行ってたよ」
――料理目当てにね。

「実は僕も‥‥」

その言葉で、男性が同じ結婚相談所の会員であり、先日のお見合いパーティに参加していたことを知った。

―へ~ぇ、全然、気付かなかった。
(気付く以前に男性達を見ていなかったのだが)

「で、その帽子と手袋なんだけど、僕が持ってったのと同じやつ‥‥」

そう言いながら、男性はコートのポケットからマフラーを取り出し、ぐるりと首に巻いた。

「あ、そのマフラー、私が持ってったのと同じ」

「え?マジ?」

「マジ、マジ」

「すんごい偶然。もしかして運命っていうやつ?」

――いやいやいや‥‥
量販品だよ?同じ物を持ってった人がいるかもしれないじゃん。
♪そんなの、運命だと思えませ~んよ~

心の中でツッコミを入れながら帽子と手袋を身に着けると、男性は嬉しそうに顔をほころばせガッツポーズをしてみせた後、手を差し出してきた。

「せっかくだから、駐車場まで手を繋いで行こっか」

――え?せっかくって何?
今日のはデートじゃないんだよね?

戸惑っていると、手を掴まれ、そのまま駐車場へ向かった。
(連行された的な)


駐車場に戻り、車が走り出した時には辺りはすっかり暗くなり、街のイルミネーションが輝いていた。

「わあっ、綺麗」

思わず、感嘆の声が出た。

「まるで僕達を祝ってくれてるみたい」

――祝ってくれてるって‥‥
私達、恋人じゃないんだから‥‥

「このまま帰るのは勿体ないから、寄り道して行こうよ」

ハンドルを握りながら、テンションが上がったように言葉を返してくる男性に面食らった。

――全然、勿体なくない!
むしろ、変な方向に進む前に帰りたい!

そんな私の気持ちにお構いなしに、男性は自分語りを始めた。

年齢、住所、趣味に学歴etc‥‥
婿養子可能な次男坊
(私が希望していた条件の合格ライン)

おまけに、笑顔は素敵、真顔も素敵
(申し分なし)

ロマンスの神様、どうか私に教えて~
もしかして、この人が私の運命の人でしょうか~


あれこれ頭の中で考えているうちに、車は【○○堂】の駐車場に停まった。

「寄り道って、此処?」
――なんか、高そうな店‥‥

尻込みしていると、背中を押され店内に入った。

「そ。記念すべき初日に、ステーキ食べていこ?」

――完全に付き合ってることになってる‥‥

このまま付き合ってしまえば良いのかと思いながら隣に座った男性を見ていると、あの人の姿がオーバーラップしてきた。

声が違う、癖が違う、利き腕違う‥‥
――私が一緒にいたいのは、この人じゃない。

男性と何を話していても、あの人とのことを思い出し会話が続かなかった。

――この人に勘違いさせたままにはしておけない。
でも、此処で言っちゃうとプライドを傷付けてしまうかもしれない‥‥

店を出ても、中々、言いだせなかった。


会社の駐車場に着いた時、男性が次の日クリスマス・イブの予定を仄めかした。

――想い出をつくる時は、あの人と二人が良い‥‥

「今日は色々ありがとう。今後の参考になって良かった。お互い良い人に巡り会えると良いね」

誘われる前にお礼を言って、男性の顔を見ずに車から降りた。

――私‥‥最低だ‥‥

家へ帰る途中、車のラジオから【DEPARTURES】が流れてきた。

自然と涙が零れた。